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要 宏輝のコラム

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 「関生型運動」考察と「労働運動要論」⑩ 


 四.関生型労働運動と業種別・職種別ユニオン運動

 
 
 (8) 日本の産業別労働組合の実態は、企業別組合の超ゆるやかな集まりだ。単産∧単組、という力関係の根拠は単組の自治権(執行権・財政権・人事権)、とりわけ財政(組合費)の大部分を単組が握っていることにある。

 連合会費は、①本部会費は一人当たり月95円を単産本部から徴収、②地方連合会費は単産の地方本部から徴収、月75~150円と府県ごとに差がある(が、現在、「全国平均の月110円程度にそろえたうえで連合本部が一括して徴収し地方に配分する」との案が検討されているが、傘下の産別からは「値上げを伴う変更は受け入れられない」との反発がある:8・22朝日)。
 単産会費は、一人当たり数百円~1千円超、単組組合費は一人当たり4~6千円といったところか。
 関生支部は、個人加盟方式を原則として単産∨単組、国際基準の産業別労働組合の構造になっている。だから、産業別統一闘争を十全に展開でき、国際基準の同一価値労働同一賃金も実現できている。
 関生の業種別・職種別賃金は、企業間格差のない統一賃金を維持し、(筆者注:すでに10年前に)平均年間所得は750万円から780万円ほどのレベルに到達している(「世界」2008年1月号、武建一「貧困=格差を乗り越える労働運動」)。
 戦後、新生労働組合は、企業単位産業報国会から社長・重役・臨時工らを排除し、「〇×株式会社産業報国会」の看板を「〇×株式会社労働組合」に書き換えた企業別労働組合からスタートした。
 運動の曲折を経て、日本的経営の「三種の神器」のなかで唯一、企業別組合はカンパニーユニオンと化して生き延びている。「日本的雇用慣行」が崩れ、非年功=非正規労働者の領域が広がっている。
 この状況下、関生支部の存在と「関生型労働運動」のインパクトは大きい。業種別・職種別ユニオンの展開は、「組織原理の改変」「複数組合主義への踏み出し」によっても大きくひらける可能性がある。
 また、関生は組織化に熱心かつ有力な労働組合の一つだ。協同組合運動で培った相互扶助の精神で「関生型労働運動」の全国化を目指している。

(9) そこで視野に入れてほしいのが、日本以前に超格差社会が深刻化しているアメリカで1990年代から台頭している「社会運動ユニオニズム」を担う、新しい労働組織と労働者運動(ワーカーセンター、労働者協同組合、職業相談・斡旋・訓練をおこなうNPO、そして労働組合が織りなすネットワーク)だ。
 伝統的な労働組合が労働者を組織するモデルはもはや壊れ、企業と労働組合双方の外におかれた労働者の拠り所をつくっている。筆者には「関生型労働運動」と重なって見える。【資料・新しい労働組織の五類型】を見て明らかなように、「関生型労働運動」は、すでに「③企業外を基礎として企業内を視野に入れる」を基本スタンスとしながら、整理解雇された場合の「優先雇用協定」(アメリカの「セニョリティ=先任権」プラス「クローズドショップ」のようなもの)や協同組合間での「共同雇用」、「斬り込み型」の組織拡大運動(注6)、政策のともなった協同組合実践、労働学校、そして多彩な政治社会運動を展開しており、広く、「①企業内重視」~④企業外重視」のネットワークの触媒となる「⑤中間支援組織(主に労働組合が役割を担う)」の原基を作りあげている。
 ちなみに、③グループのワーカーセンターは労働組合ではないが、実質的に団体交渉の機能も果たしているし、最も発展している④グループの、中核組織であるワーキングアメリカは350万人(2003→2010年)を数え、「企業外重視」を徹底化させたCHCA(在宅介護労働者協同組合)は介護施設やレストランを、食品商業労働組合はスーパーマーケットを経営するに至っている。


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 (10) 一つの企業に長い間、安定的に雇用され、男性が稼ぎ頭となってきた社会は日本も同じように崩壊している。企業と組合の関係の外に置かれた労働者の数も拡大の一途だ。
 「労働に生活を包摂する」から「生活に労働を包摂する」組織が誕生するのは当然の結果だ。長期安定雇用のもとで賃金と社会保障が守られる労働者もいるが、その数は絞り込まれてきている。そこにとどまる限り、労働者の権利や組合の役割を議論しても不毛だ。
 平たく言えば、分断された人々の「絆」をどうやってつなぎ合わせるのか。企業と組合双方の外に置かれた労働者の拠り所を地域コミュニティに作る。それは、誰か有力なリーダーが為(な)すわけではない。当事者を見出し、自発的な参加を促すオルガナイザーの存在が大きい。
 人々の絆をつなぎ、関係当事者の間に立って利害を調整するコーディネーターをどう計画的に作るか。その供給源は労働組合員、学生、社会福祉関係者、宗教関係者など様々だ(遠藤公嗣・筒井美紀・山崎憲「仕事と暮らしを取り戻す―社会正義のアメリカ」(第4章「支え合う社会を復活させる―ソーシャルネットワーク化する組織」、岩波書店)。アメリカはじめ、ドイツやスウェーデンなどの社会運動の動向も注目に値する。

 (11) 企業別組合が上部組織や地域との連帯を分断し、連帯意識の形成を阻む役割を果たし続けている。
 階級連帯が後退し、見えなくなっているのはそれを阻んでいる様々な「構造問題」が横たわっているからである。企業と運命を共にしている企業別組合はいかに強固に見えてもそれは普遍的ではないし、微細な存在でしかない。
 日本の労働運動は、わずか戦後二世代で活動家が払底してしまった(労働界の「2007年問題」)が、「まだこのレベル」とみなすこともできる。為すべきことに不足や過ちはなかったか。連合結成が本当によかったのか、連合が社会的役割を果たし得なければ、「統一は分裂の始まり」になり、リセットされるしかない。

 

 (注6)
 「斬り込み型」の組織拡大運動:通常の組織拡大は未組織労働者の労働相談や駆け込みが契機だが、関生支部の組織拡大はプロジェクトチームを作り、ターゲット(職場)にむけてアプローチを計画的に行い、公然化の成果を上げている。
 しかし、その組織化手法はゼンセン方式とは真逆のものだ。

  【 くさり9月号より 】


  

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 筆者プロフィール
 
  要 宏輝  かなめ ひろあき
 
 1944年香川県に生まれる。
<運動歴>1967年総評全国金属労働組合大阪地方本部書記局に入局/1989年産別合併(第一次)で全国金属機械労働組合になり、1991年に同大阪地方本部書記長/1999年産別合併(第二次)でJAM大阪副委員長、連合大阪専従副会長/2005年定年後、連合大阪なんでも相談センター相談員/2009年1月連合大阪訴訟(大阪府労働委員会労働者委員再任妨害、パナソニック偽装請負批判論文弾圧、「正義の労働運動ふたたび」出版妨害、不当労働行為企業モリタへの連合大阪会長謝罪事件の四件の人格権侵害等訴訟)/2009年5月和歌山労働局総合労働相談員
<公職等>1993~2003年大阪地方最賃審議会委員/1999~2008年大阪府労働委員会労働者委員
<著書>「倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方」(編著、柘植書房、1987年)/「大阪社会労働運動史第六巻」(共著、有斐閣、1996年)/「正義の労働運動ふたたび 労働運動要論」(単著、アットワークス、2007年)/「ワークフェア―排除から包摂へ?」(共著、法律文化社、2007年)など
<最新の論文等>「連合よ、正しく強かれ」(現代の理論2009年春号)/「組合攻撃したものの法的には負けっぱなしの橋下市長」(週刊金曜日2015.2.6号)/「結成28年で岐路に立つ『連合』」(週刊金曜日2017.8.25号)など

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