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要 宏輝のコラム

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 今号から数回にわたり、元全国金属のオルグであり、元大阪府労働委員会労働者委員の要宏輝さんによる「関生型労働運動」についての考察を掲載します。

 ■刑事弾圧との闘い(2)■

 前回(第二回)は「推定無罪」の原則など、近代法の三つの基本原則について述べたが、原則には例外があるように、その例外が現実のようになっている。その傾向は一般刑事事件において顕著である。

 まずは、第二の「推定無罪」の原則の有名無実化から述べる。マスコミ報道によって、逮捕・起訴された者は有罪、つまり「逮捕(すること)=有罪(にすること)」「容疑者(被告)=犯罪者」とみなす「推定有罪」としての誤認識が国民感覚として定着している。怖いことだ。

 例えば、職を失う:逮捕や起訴されただけで、(有罪が確定する前であっても)懲戒解雇などの処分が行われ、被疑者の社会的地位が不可逆的に奪われる。後で無罪が確定しても、雇用主には復職させる義務はない。被疑者として実名が報道されれば、世間にも前科として監視され、就職できなくなる。転居を余儀なくされ、家族が離散する:親兄弟までが住所を変える。「推定無罪」認識の不十分な市民によるネットを使った私刑(バッシング)の大衆化がこの風潮を後押しする。

 その結果、被疑者家族の離散・転居が「当たり前」のように余儀なくされる。親が「死んでお詫びする」理不尽なことも起こる。「推定有罪」の実質化の原因は多々挙げられるが、一番大きいのはマスメディアによる「犯人視」報道だ。

 逮捕した被疑者の実名や年齢、職業を報道すること、被害者の顔写真は丸、被疑者の顔写真は四角という区別で掲載される。99%以上に及ぶ有罪率の高さもメディアの姿勢を許している。それを絵にかいたような報道が、言語道断な週刊文春新年号の「連帯批判」報道だ。

 政治家と芸能人にはプライバシーはないといわれ「文春砲」は下ネタを売りにしてきたが、今期の記事は福島みずほ議員の国政調査権妨害であり、争議つぶしである。争議の核心のエム・ケイ運輸の分会長襲撃事件(2015年11月30日)の犯人はまだ摘発されていない。週刊誌とはいえマスコミの矜持があれば、公安警察の「ちょうちん持ち」や争議弾圧の「あおり」をやるべきではない。

「争議・運動をつぶす」弾圧から
「組織・団結をつぶす」弾圧へと

 次いで、第一の「争議=正当行為免責」原則、第三の「争議=民事不介入」原則の有名無実化である。労働争議では(仕組まれていない限り)現行犯逮捕は無く、事後的になされる令状逮捕が常なので「でっち上げ逮捕」によって、無罪であっても「事件化」し易(やす)い。私の周辺でも活動家がつぶされた無念のケースがままあった。

 公安・警備警察は、憲法秩序や民主主義を暴力によって破壊する活動を監視し予防する活動を任務としてきた。犯罪の可能性を取り締まることを名分に、法を超えた形で活動できるわけだからその活動を法で規制することは難しい。(百歩譲っても)その権力の行使は抑制的でなければならない。

 「憲法と労組法は70年以上も変わらないのに、なぜ、弾圧・争議に関する裁判例は大きく変わってきたのか」(永嶋靖久弁護士の常套句、以下、同氏の「争議弾圧」の論稿等を要約・引用させていただく)。

①治安法制の再編成

戦前の弾圧法:治安維持法(戦後1945年、GHQの指令で勅令により廃止)。特高は解体されたが、公安検察は生き延びる(後述)。

 戦後の弾圧法:破防法(破壊活動防止法、1952年。現在、共産党・新左翼党派・朝鮮総連・愛国党などの右翼団体・オウム真理教など破防法の調査対象団体は17)、暴処法(注2、暴力行為等処罰に関する法、1926年)。暴処法は暴力団と労働争議の取り締まりに使われた。

 近年の弾圧法(1985年~):1975年のスト権スト~1987年国鉄の分割民営化がエポック。暴対法(暴力団対策法、1991年)・組対法(組織的犯罪処罰法とも略し、正式名称は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」、改正刑事訴訟法・通信傍受法と同時に制定、1999年)、そして2017年、共謀罪法(注3)成立。監視や権利侵害が合法化され、現代の治安維持法体制が整う。小さな政府に比して「大きな警察」となり、「争議・運動をつぶす」弾圧から「組織・団結をつぶす」弾圧へと大転換した。


②「争議=正当行為なるもの」の保護範囲の縮小、逆に弾圧範囲の拡張

 最高裁指導下の裁判官会同(会議)によって、法手続きの恣意的な運用が横行、裁判官の思想の右傾化と労組法無知が原因だ。これまでの学説は、企業に対し弱者である労働者を保護してきたが、今や大企業や金融機関さえも倒産する時代、労働組合が使用者以外の第三者に対して、会社の経営方針や企業活動を批判するビラを配布し、争議行為を行うことは正当な組合活動といえるか、との裁判官主張も登場。使用者概念の拡大から「縮小」へ、争議を工場の塀の中に封じ込めるネライ。


③労働法制のシフトの変化=集団的労使関係から個別的労働関係へ

 争議件数の激減・労働組合の組織率低下→労働契約法(第1条「個別の労働関係の安定に資すること」、2008年)、労働審判法(法務大臣「集団対集団、力比べの時代ではなくなった」、2004年)、個別労働関係紛争解決促進法(2001年)の斡旋制度といった法制度の新設へ。


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どのような争議が違法とされ
どのような弾圧を受けるのか

 一昔前は、大衆団交、解雇撤回の就労闘争、親会社への抗議行動、ピケ・ストとスキャップ(スト破り)の攻防をとらえて、「暴処法」(暴力行為等処罰に関する法)の適用による不当弾圧が常であった。反撃として、所轄警察署や府警本部への抗議デモもよくやった。では近年、争議弾圧の態様がどう変わってきたか。裁判所の、逮捕令状の「自動販売機」化、仮処分決定の乱発・認容で労働争議そのものの「非合法化」を思わせる様相を呈している。労働争議に限定して、以下例示する。

 ①ピケット(刑事事件):2011関西宇部事件では、被告人らの行為は法秩序全体の見地から許容されないとし、会社側になんら損害が発生していないにもかかわらず、威力業務妨害で有罪とした。

 ②ピケット(民事事件):1992年御国ハイヤー事件では、組合員が車庫内に座り込んで営業車両の出庫を2日間阻止したことに対して会社が損害賠償を請求。高松高裁では「正当な争議行為」として会社側敗訴。最高裁では「争議行為の本質は労働者が団結して労働力を使用者に利用させない(筆者注記:静かなストライキ)ことにあるのであって、説得活動の範囲を超えて営業車両の運行を阻止することは許されない」として破棄差戻し、正当性を認めなかった。

 ①・②の判決について、「ピケットが平和的説得の方法しか許されないとしたら、争議権保障は負けるに決まった争議方法を保障するにすぎなくなる」(佐藤昭夫・早大名誉教授)。


※注釈は次号に掲載します。


  【 くさり2月号より 】

 
 筆者プロフィール
 
  要 宏輝  かなめ ひろあき
 
 1944年香川県に生まれる。
<運動歴>1967年総評全国金属労働組合大阪地方本部書記局に入局/1989年産別合併(第一次)で全国金属機械労働組合になり、1991年に同大阪地方本部書記長/1999年産別合併(第二次)でJAM大阪副委員長、連合大阪専従副会長/2005年定年後、連合大阪なんでも相談センター相談員/2009年1月連合大阪訴訟(大阪府労働委員会労働者委員再任妨害、パナソニック偽装請負批判論文弾圧、「正義の労働運動ふたたび」出版妨害、不当労働行為企業モリタへの連合大阪会長謝罪事件の四件の人格権侵害等訴訟)/2009年5月和歌山労働局総合労働相談員
<公職等>1993~2003年大阪地方最賃審議会委員/1999~2008年大阪府労働委員会労働者委員
<著書>「倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方」(編著、柘植書房、1987年)/「大阪社会労働運動史第六巻」(共著、有斐閣、1996年)/「正義の労働運動ふたたび 労働運動要論」(単著、アットワークス、2007年)/「ワークフェア―排除から包摂へ?」(共著、法律文化社、2007年)など
<最新の論文等>「連合よ、正しく強かれ」(現代の理論2009年春号)/「組合攻撃したものの法的には負けっぱなしの橋下市長」(週刊金曜日2015.2.6号)/「結成28年で岐路に立つ『連合』」(週刊金曜日2017.8.25号)など

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