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要 宏輝のコラム

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 今号から数回にわたり、元全国金属のオルグであり、元大阪府労働委員会労働者委員の要宏輝さんによる「関生型労働運動」についての考察を掲載します。

 ■刑事弾圧との闘い■

 労使の利害が完全に一致する社会体制が実現しない限り、争議行為が消滅することはない。日本の争議行為の減少は、企業の内部留保の積み上げ(2016年度末、406兆円)と労働分配率の低下(2017年法人企業統計調査、資本金10億円以上の大企業43.5%、1971年以来46年ぶりの低水準)という現実を見る限り、労使関係の成熟の必然的結果というよりは労働組合の闘争力の低下が原因である。

 確かに、関生型運動には「敬して遠ざけるとの雰囲気」がある。企業内的な経済闘争にとどまらず、政治・社会的な闘いや運動を「よくやるなァ」と思ってはいるが、「どこかウチの組合とは違う」というのが、世の組合世界の評価だ。この評価の落差には、第一に公安警察による「争議弾圧」「刑事弾圧」の乱用にあると思われる(別稿でも後述)。

 ■組合の「御用化」と役員の「ノンポリ化」■

 世の組合は、労働組合活動に「刑事免責」「民事免責」があることを知らなさすぎる。団体交渉は強要(罪)そのもの、ストライキやピケッティングは威力業務妨害(罪)そのものだ。争議を避けた「おしゃべり団交」のパフォーマンスだけで、会社の限界回答のカベをこえられるなら、その方法を教えてほしい。

 労使の利害関係がからむ問題をとりあげず、賃労働対資本という資本主義の決定的な矛盾と向き合うことをしない、何よりも社長や上司ににらまれるような労働運動をしない、そんな労働組合が増えている。連合をみてもわかるように、職場で闘わない労働組合がいくら増えても社会を変革する力にはならない。連合から見れば、関生型運動は「怖くて寄らしむべからず」だろう。多くの刑事弾圧の乱用は、労働運動全体の分断を生みだし、国家的不当労働行為(支配介入)である。

 連合や産別のなかには、権力との関係で「(直接・間接に)一線を越えた」「脇の甘い」組合幹部が存在することも事実だ。彼らは「悪いことをしている」との認識がないから困ったものだ。つまりは、関生型運動が「やりすぎ」ではなく、我々が総評時代に普通にやっていた組合活動を、世の労働組合が劣化し、集団でやる組合活動をまともにやらなくなったということ。連合になって進んだことは組合の「御用化」と組合役員の「ノンポリ化」、これは世間も認める〝不都合な真実〟だ。

 「権力との一線を越えてはならぬ」とは、通常の活動家なら誰でも知っている労働運動の警句であるが、この意味は刑事弾圧に対して左・右の立場を超えて連帯して闘うということでもあることを銘記す(心に刻み込む)べし。

 ■法的に正当な争議行為

 第一に「争議行為と刑罰」について。社会権(労働三権ほか)は国の作為(保護すること)を求め、自由権(思想・信条の自由ほか)は国の不作為(関与・介入しないこと)を求める、と言われる。

 つまり、労働争議に関してはその目的(労組法1条1項:労働者の地位の向上)が正しければ、多少の行き過ぎがあっても罰するに値するほどの違法性がない限り、「正当行為」とされてきた。(注1)

 通常の団体交渉や争議行為、集団的組合活動が、直ちに刑法の犯罪構成要件に該当するような例はまれである。普通、私人が行えば違法とされる強要罪、威力業務妨害などの行為が刑罰法規の犯罪構成要件に当てはまる場合でも、争議行為は(暴力や違法な脅迫でない限り)罰せられないのが労組法1条2項の規定である。争議行為とは何か、唯一、労働関係調整法が「(会社の)業務の正常な運営を阻害するもの」(7条)と法的に定義している。

 通常、争議行為を集団で行い、相手を窮地に追い込まなければ対等交渉し成果を上げることはできないことは法の認めるところだ。


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 ■「疑わしきは罰せず」より「無罪の推定」が強い!■

 第二に「推定無罪」原則について。「検察官が被告人の有罪を証明しない限り、被告人に無罪判決が下される(=被告人は自らの無実を証明する責任を負担しない)」ということを意味すること(刑事訴訟法336条)。つまりは、有罪判決が確定するまでは、何人も犯罪者として取り扱われない(権利を有する)。これを裁判官側から表現した言葉が「疑わしきは罰せず」であり「疑わしきは被告人の利益に」であるが、「疑わしきは罰せず」より「無罪の推定」の方が強い。完全黙秘は冤罪から自らを守る、唯一の術であると言われるゆえん(理由)だ。

 第三に「民事不介入」原則について。警察は民事事件には介入できない。労働争議は、組合と会社の間の民事事件そのもので、正常な運営を阻害しょうが阻害しまいが、警察は介入できない。警察に限らず行政機関、例えば労働基準監督署でも労基法違反の事案があっても当該労使間で団交中や争議中であれば「民事不介入」原則をタテに動かないことがある。下手に動けば、労・使どちらかに加担したことになり、行政の中立・公正が損なわれるからである。

 だが実際には、「民事不介入」原則は、ストーカー事件など扱いたくない便利な言い訳として使われている。仕事をしたくないケースや警察上層部による政治的もみ消しの「詩織さん事件」(準強姦罪で逮捕状を取りながらも加害者を逮捕・送検せず、詩織さんを弁護士事務所に連れていき、示談を勧めた)などがあるが、前者は警察の怠慢・不作為、後者は警察の不作為プラス不当な「民事介入!」である。ところが、同じ警察であっても公安警察(後述)の、あってはならぬ「民事介入」つまり「刑事弾圧」が目立ち、その権利濫用は尋常ではない。


 (注1)憲法28条:勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利はこれを保障する。/労組法1条2項:刑法35条に規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない(←刑事免責、刑法35条:法令又は正当な業務による行為は、罰しない)。/労組法8条:使用者は、同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによって損害を受けた故をもって、労働組合又はその組合員に対して賠償を請求することはできない(←民事免責)。


  【 くさり1月号より 】

 
 筆者プロフィール
 
  要 宏輝  かなめ ひろあき
 
 1944年香川県に生まれる。
<運動歴>1967年総評全国金属労働組合大阪地方本部書記局に入局/1989年産別合併(第一次)で全国金属機械労働組合になり、1991年に同大阪地方本部書記長/1999年産別合併(第二次)でJAM大阪副委員長、連合大阪専従副会長/2005年定年後、連合大阪なんでも相談センター相談員/2009年1月連合大阪訴訟(大阪府労働委員会労働者委員再任妨害、パナソニック偽装請負批判論文弾圧、「正義の労働運動ふたたび」出版妨害、不当労働行為企業モリタへの連合大阪会長謝罪事件の四件の人格権侵害等訴訟)/2009年5月和歌山労働局総合労働相談員
<公職等>1993~2003年大阪地方最賃審議会委員/1999~2008年大阪府労働委員会労働者委員
<著書>「倒産労働運動―大失業時代の生き方、闘い方」(編著、柘植書房、1987年)/「大阪社会労働運動史第六巻」(共著、有斐閣、1996年)/「正義の労働運動ふたたび 労働運動要論」(単著、アットワークス、2007年)/「ワークフェア―排除から包摂へ?」(共著、法律文化社、2007年)など
<最新の論文等>「連合よ、正しく強かれ」(現代の理論2009年春号)/「組合攻撃したものの法的には負けっぱなしの橋下市長」(週刊金曜日2015.2.6号)/「結成28年で岐路に立つ『連合』」(週刊金曜日2017.8.25号)など

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